研究紹介『拓かれゆく重力波物理学 ~一般相対論的連星軌道予測~』

研究紹介『拓かれゆく重力波物理学 ~一般相対論的連星軌道予測~』

物理学・宇宙物理学専攻(物理学第二分野)・教授 田中 貴浩

 
 
 

一般相対論がニュートン重力に代わる重力理論として提唱されて100年が経過し、その確かさが次々に証明されてきました。しかしながら、一般相対論に基づいた宇宙モデルの構築には、ダークマターやダークエネルギーといった未知の物質を仮定する必要があります。また、量子力学と整合性のある重力理論を考えるためには、一般相対論を拡張する必要性があります。

 

そのような中、2015年9月の初の重力波直接観測が報告されました。一般相対論は時間-空間の曲がりによって重力を記述する理論です。この時空間の曲がりが波となって伝わったものが重力波です。重力波の直接検出により、我々が宇宙を探索する新しい観測手段がまたひとつ増えました。それと同時に重力理論を実験的に検証する新しい手段を得たということも意味します。現在、日本においても地上重力波検出装置であるKAGRAによる観測に向けた準備が進められています。

 

はじめて観測された重力波は、ブラックホールがつくる連星が合体する際に放出された重力波であったと考えられています。十分に近い連星は重力波を放出することでエネルギーを失い、互いに落下して距離を縮め、最終的には合体します。この合体に至る長時間の過程を理論的に予想する研究は私が手がけてきた研究のひとつです。この研究の端緒は30年くらい前にまでさかのぼります。今年、基礎物理学研究所を定年退職される佐々木節教授と、3年後輩の蓑靖志君との共同研究で、我々は重力波放射による反作用で星の軌道がどのように変化するかを計算する基礎方程式の導出に成功しました。ブラックホール時空中を運動する星を質点として扱うことで一般相対論的な重力場の計算が可能になりますが、このとき質点の位置での重力場は発散してしまいます。有限のサイズの星を考えれば現れないはずの、みかけの発散を除去する方法を与えたという点がエッセンスです。この計算手法は連星の質量の比が非常に大きな極限で有効で、銀河中心にある巨大ブラックホールに星が落ち込む様子(図1参照)を記述するために必要になる理論です。地上の重力波検出装置では地面の振動が大きなノイズとなり、巨大ブラックホールに星が落ち込む現象を捉えることは困難ですが、将来的に宇宙重力波検出装置を建設することによって検出が可能になると期待されています。日本発の提案であるDECIGO計画という宇宙重力波検出装置の構想と基礎研究も進められています(図2参照)。

 

話を戻すと、我々の研究が出発点となり、毎年Capra meetingと呼ばれる国際研究集会が開かれ、研究の進展は続いています。我々は基礎方程式を与えましたが、実際にこの方程式を解くことは容易ではなく、ようやく最近になって具体的な数値計算が可能になってきました。その後も関連する研究として、現在、龍谷大学の中野寛之君や九州大学の佐合紀親君らと共同で、長時間にわたる連星軌道の時間変化を正確に計算する為に必要となる公式を世界に先駆けて導出することに成功しました。この公式は無駄な計算を省略しつつ、現時点では長時間連星軌道発展を最高の精度で計算できる手法を与えるものです。しかし、将来期待される観測精度と比べると、この公式で与えられる理論予言の精度は不十分であり、現在も十分な精度の計算を可能にする手法の開発を進めています。

 

この他にも重力波、および、重力理論に関わる研究を進めてきた経緯から、現在、新学術領域研究「重力波物理学・天文学:創世記」の領域代表を任されております。この新学術領域は、重力波の直接観測がはじまった今、この科学的大発見のチャンスをつかむために、重力波データ解析、対応天体観測、理論的研究、それぞれの強みを活かし密接で高域な連携を実現することで、重要な成果を挙げるとともに、将来を担う若手研究者の育成をおこない、この新しい学問の創世をリードすることを目指すものです。領域には京大からも多くの研究者が参加してくれています。全国の研究者仲間に支えられて、本年度からスタートした本領域で大きな成果を挙げたいと意気込んでいます。ホームページ(https://gw-genesis.scphys.kyoto-u.ac.jp/ilias/goto_root_root_1.html)を通じて、最新の情報を発信していますので、是非ともご覧下さい。

 
図1. ブラックホール時空に質点が運動する様子の模式図。重力波放出でエネルギーを失うことで軌道半径が徐々に短くなる。
図2. DECIGOの前身となるB-DECIGO計画のイメージ図。3台の編隊飛行をする衛星間にレーザーを飛ばし距離の変化を測定し、重力波を捉える。(原図はProgress of Theoretical and Experimental Physics, 2016, no.9, 093E01 © Nakamura et al. (2016)であり、日本物理学会に代わりOxford University Pressより出版された。)