企画名

「かたちづくり」の数理を発見しよう!
 

参加教員

教員名 所属 職名
市川 正敏(代表教員)  物理学・宇宙物理学専攻   講師
小山 時隆 生物科学専攻 准教授
松本 剛 物理学・宇宙物理学専攻   助教
宮崎 真一 地球惑星科学専攻 教授
坂崎 貴俊 地球惑星科学専攻 准教授
 

企画概要

 植物の葉や木の幹、細胞組織、海岸地形、自然界は我々に興味深い様々な形を見せてくれる。ブロッコリーの一種ロマネスコの形やリアス式海岸の形などで見られるフラクタル形状などは有名な例である。この様な「かたちづくり」を平衡系や非平衡系における構造形成やパターンダイナミクスの枠組みで理解する多くの試みがこれまで為されてきている。このとき、測定、観察やフィールドワークの多くは二次元に射影したもので検討されてきている。確かに少し以前まで、3次元構造にアクセスする事は実験や測定の問題で困難であったが、近年はそれを克服する技術が身近になってきた。例えば、ドローン測定技術の発展によって身近な光景を3次元化できるようになっている。
 SG活動としては、デジタルカメラや顕微鏡による生物組織内の動的パターニングの観察、ドローン等による物理学的・地球科学的な現象(波、渦潮)の観察など、スケールの大きく異なる現象を分け隔てなく実習対象とし、ゼミなどを通じて議論や学習を深める。一方、主軸の実習テーマとして2021年度SG6で培ったドローンを用いた撮影技術や3D再構成を本SGでも活用する。植物園及び演習林でのドローン測定の練習を行うほか、これら樹木の測定を生かしたフィールドワーク実習として高山樹林の縞枯れ現象の定量観察を目標の一つに定める。今年度は、画像測定法に加えて環境パラメータの同時測定も試みる。例えば、縞枯れ内でのzxy風速・温度測定から3次元環境測定を行い、形状から計算される日照範囲や実際の育成状態との比較から、かたちづくりのメカニズムの具体的な議論につなげたい。

 

実施期間

通年
 

頻度

2〜3週間に1度の頻度でゼミや実習を実施。ゼミはドローンの練習も挟みつつセミナー形式から始める。参加者の人数にも依存するが、教員の紹介が一巡したのち参加者のディスカッション/ディベート形式になる様に持って行きたい。

 

その他

TA雇用を希望。新型コロナの状況によるが、セミナー招聘(1~2回)やドローンによる観察のための研修旅行を企画したい(1〜3回、可能なら夏季)。本計画は2021年度SG6の後継。
 

問い合わせ先

市川 正敏  ichi*scphys.kyoto-u.ac.jp
(*を@に変えてください)
 

スタディグループへの登録は締め切りました。
関心のある方は macs *sci.kyoto-u.ac.jp(*を@に変えてください)までご連絡ください。

 


画像
2022SG6_1
理学部植物園での練習風景
画像
2022SG6_2
 紅葉鮮やかな秋の北部キャンパス
画像
2022SG6_3
 雪模様で空も森も縞枯れ
画像
2022SG6_4

縞枯れ樹木教会の合成立体像

画像
2022SG6_5

付近の航空写真(出典:国土地理院空中写真 2004/2013年撮影)を背景に、今回の測定で得た合成写真を重ねて表示したもの。

画像
2022SG6_6

​​​​​鳴門の渦潮の鉛直見下ろし写真

SG6報告会資料ダウンロード

活動報告

活動目的・内容

 本SGでは、生物組織内の動的パターニングや物理学的・地球科学的な現象(波、渦潮)が生み出す構造など「かたちづくり」の背後にある数理を発見する事を大きな目的としている。実験やフィールドワークなど実際に観察してデータを取得する事を重視する実践型の実習を目指した。活動の概要は、2~3週間に1回程度の頻度でゼミでの議論や解析の発表と解説、理学部植物園でのドローン飛行や測定の練習、出張によるフィールドワーク測定である。これまでのSG活動や今年度の練習で培ったドローンを用いた撮影技術や3D再構成を活用し、縞枯れや渦潮など興味深い現象が生みだした構造を実際に測定、その測定結果を基に形成メカニズムをゼミで議論した。

活動成果・自己評価

ゼミについては教員が座長となりつつ学生が主体的に発表した。本SGの参加教員および学生は多様な分野の研究に従事しており、多彩な視点からの意見を取り交わすことができた点が評価できる。飛行練習では参加メンバーのドローン操作・解析技術が飛躍的に向上した点も実績となった。実際に自らの足と操縦で計測対象にアクセスしたフィールドワークは、学生にとって大きな経験になったと共に、計測対象を間近に見て考える事で柔軟な発想が誘起されることで、ゼミでの議論の推進力にもなった点が特筆できる。

今年度の活動では、縞枯れパターンの測定と経時変化の比較を第一目標に定めて活動を行った。ドローンを理学部植物園で飛行させ、樹木や森の3D撮影など複数回実施して飛行技術や画像取得の練習を行った。飛行後のゼミでは、撮影した画像データを用いて複数の画像から広域の地形図を作成する方法や、3次元形状を取得するソフトウェアの性能評価や練習を行い、操作方法や使用方法に習熟していった。
フィールドワークに関して目的地をその模様を語源とする長野県茅野市の縞枯山に定めて計画を立てた。当初計画した9月上旬の縞枯れ観察は非常に強い台風の接近によって出発を取りやめたが、10月下旬に再度トライしてフィールドワークを行った。あいにくの寒波で荒天や吹雪の時間帯も有ったものの、無事にドローンを飛行させて写真や動画を取得する事ができた。帰学後に縞枯れの立体像や合成画像を作成し、国土地理院の地形図や過去の空撮写真等との照合を行うことで、縞枯れの移動速度やパターンの変遷などを議論した。得られた縞枯れの進行速度は、先行研究が報告していた地上からの定点写真に基づく数値範囲と整合しており、進行速度の空間分布が得られるなどドローンによる測定が有効である事が確認できた。今回は一縞程度の限られた領域しか測定できなかったが、撮影範囲を拡張する事ができれば縞枯れの進行マップ、つまり森林全体の進行後退の空間分布を得る事が可能である事が分かった。空撮よりも解像度が高い3次元の電子地図模型を、自らの足と手で作成できるノウハウを参加メンバーが得られた事も本SG活動の大きな成果であると言える。
更に、今年度の後半には鳴門海峡に発生する渦潮の観察も行い、渦の時間発展や渦列などのダイナミクスの測定を試みた。見栄え重視の鳥瞰だけでなく、高解像度で垂直に見下ろした視点など、アクセスが困難な場所や条件において解析に適した画像や動画を取得する事ができた。測定と解析の両方に取り組む事で、解析に適した測定方法や解析の工夫で補完できる範囲などを、実際の対象を題材にして参加メンバー間で議論できたことも、メンバーの思考や考察の幅を広げるものであり成果の一つとして挙げておきたい。

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
市川 正敏(代表教員) 物理学・宇宙物理学専攻 講師
小山 時隆 生物科学専攻 准教授
松本 剛 物理学・宇宙物理学専攻 助教
宮崎 真一 地球惑星科学専攻 教授
坂崎 貴俊 地球惑星科学専攻 准教授
明石 大輝 物理学・宇宙物理学専攻 M2
小野 基紀 物理学・宇宙物理学専攻 M1
北山 七海 生物科学専攻 M2
高野 友篤 その他(医学研究科医学専攻) D2
田渕 辰悟 その他(理学研究科) B4
釣部 浩貴 その他(理学部) B2
野末 陽平 地球惑星科学専攻 M2
林  大寿 物理学・宇宙物理学専攻 D1
堀川  湧 生物科学専攻 B4
前田 玉青 生物科学専攻 D3
眞砂 海斗 地球惑星科学専攻 B4
三浦  憂 物理学・宇宙物理学専攻 M1
漁野 光紀 地球惑星科学専攻 M1

鳴門海峡での渦潮観測 報告

理学研究科物理学・宇宙物理学専攻
ソフトマター物理学研究室 修⼠1年
⼩野基紀

 

MACS SG6 は、「『かたちづくり』の数理を発⾒しよう!」をテーマに活動している。今年度の活動の⼀環として、兵庫県の淡路島と徳島県の⼤⽑島の間の鳴⾨海峡(図 1)において渦潮のドローン観測を⾏ったので、報告する。

⼀般にもよく知られている鳴⾨の渦潮は、陸地周辺の遅い流れと海峡を横切る速い流れの速度差によって発⽣する(兵庫県南あわじ市 HP)。潮の満ち引きが鳴⾨海峡の東側と⻄側で⼤きな位相差を持つため、満潮及び⼲潮の前後の海⽔⾯に最⼤ 1.5mの⾼低差ができることによって速い流れが⽣じる。

先⾏研究としては、衛星で撮影した海洋カラー画像と⾼解像度の海洋モデルを⽤いて渦度場と河川⽔マップの融合可視化がある[中⽥ら(2020)]。今回の活動では、満潮及び⼲潮の前後に鳴⾨海峡でドローンを⾶ばして渦潮を動画で撮影し、渦潮のダイナミクスやメカニズムの考察を⽬指した。

ドローンで渦潮に近づくことで、渦潮の経時変化や渦列の様相を⾼解像度で撮影することができた。今後の解析で、渦潮のダイナミクスの考察を⽬指したい。

渦潮を間近で⾒る観光船が多く、渦潮の観光資源としての渦潮の注⽬度の⾼さを感じた。強⾵のため帰還する際に、電池残量の減少による焦りからドローンの操縦に⼿間取る場⾯もあり、⽇々の練習の重要性を実感した。今後も、⽇々の活動や出張に積極的に参加していきたい。

参考⽂献:「鳴⾨海峡の渦潮のしくみ」南あわじ市 HP
(https://www.city.minamiawaji.hyogo.jp/soshiki/uzushio/shikumi.html)


図 1 観測地(鳴⾨海峡)周辺地図


図 2 ドローン発着点から⾒た渦潮


図 3 ドローンからの渦潮概観


図 4 より接近して撮影した渦潮

 


北八ヶ岳の縞枯れ観測 報告書

理学研究科 地球惑星科学専攻
測地学及び地殻変動論分科 修士2年
野末 陽平

 

私の所属する MACS SG6 は、「『かたちづくり』の数理を発⾒しよう!」をテーマに活動している。今年度の活動の⼀環として、⻑野県茅野市において縞枯れ現象のドローン観測を⾏ったので、報告する。

縞枯れとは、樹⽊の⼀部が数本の”帯”をつくるように枯れることで、遠景では斜⾯に縞模様が現れる現象である。⼤峰⼭〜⼋甲⽥⼭の緯度帯で、標⾼ 2300〜2700m の主として南向き斜⾯上に⾒られ、それぞれの”縞”は平均して約 2m/yr の速度で移動していると⾔われている[岡 (1983)]。また、80 年間にわたって北⼋ヶ岳のほぼ同じ位置で撮影された写真の分析により、縞枯れの移動速度は年平均気温に深く関わることが確認されている[本橋・⼩曽⼾ (2013)]。ドローンを活⽤することで、縞枯れの空間分布をこれまでよりも容易に、かつ広域的に調査できると考え、今回の観測を⾏った。

観測は 2022 年 10 ⽉ 25 ⽇〜26 ⽇に⾏われた。北横岳・⾬池⼭・縞枯⼭の斜⾯上の縞枯れ(図 1)を観測の対象とした。樹⽊や積雪などの状況を考慮して、縞枯⼭周辺の 3 地点(図 2:地理院地図に書き込み。⾚点は発着点の位置)においてドローンを発着させ、上空からの撮影や観察を⾏った。写真測量モードでの⾶⾏の結果から、1 本の縞枯れ(図 3:撮影画像をソフト”Metashape”により解析した結果の⼀例。⾚枠は縞枯れの位置)が確認できるように、今後の解析で有⽤なデータが得られた。

撮影画像は地形データと結びついており、専⽤のソフトを⽤いることで 3 次元的な縞枯れ分布図を作成することも可能である。得られた図から、縞枯れの空間波⻑・傾斜⽅向と縞枯れの⽅向との相関・樹⾼の変化など、詳細な解析および検討を今後⾏いたい。

観測期間中、⼭の中腹では紅葉が⾒頃であり、美しい景⾊を楽しむことができた(図 4)。また、坪庭から発着地点までの移動では私⾃⾝にとって初の雪⼭登⼭を体験したという点でも、⾮常に良い経験となった。縞枯れの移動現象については、数年後に再び観測に訪れれば、縞枯れが有意に移動しており興味深い結果が得られるのではと思う。今後も、こうした観測などに積極的に参加していきたい。